一月の終わり。
あの暗い四囲から抜け出て、もうすぐ一月になる。
暗い四囲の中では、何も身に纏うことを許されず、目に見えない障壁に包まれ、躰は柔らかくも切れない紐で縛られ、棺桶よりも狭く身動きのできない中で、その緩慢な地獄の中から助け出してくれるのを待つばかりだった。
今は、自分の足で歩き、綺麗なドレスを着て、たまに見かける妖精達を追いかけたりして、自分の意志で動くことができる。
あとは、紅の馬に乗る彼の人と話がしたい。
あの暗い四囲から抜け出て、もうすぐ一月になる。
暗い四囲の中では、何も身に纏うことを許されず、目に見えない障壁に包まれ、躰は柔らかくも切れない紐で縛られ、棺桶よりも狭く身動きのできない中で、その緩慢な地獄の中から助け出してくれるのを待つばかりだった。
今は、自分の足で歩き、綺麗なドレスを着て、たまに見かける妖精達を追いかけたりして、自分の意志で動くことができる。
あとは、紅の馬に乗る彼の人と話がしたい。
ドレスで乗馬はかなり難しいことに気づいた。
長いスカート部分が、跨る時に邪魔になってしまう。
このドレスはとても気に入っている。ただし、いつか紅の馬に乗る時がきたら、これではない違う衣でなければ難しい。
朝、目が覚めたら、リボンが付けられた大きな箱がベッドのそばにあった。
リボンを解いて、箱を開けてみると、私の目の色と同じ、碧色のドレスが入っていた。
試しに着てみると、私の躰のサイズにぴったり合っていて、私のために誂えたようなドレスだった、
すごく、嬉しい。今はもうそれしか言う言葉が思いつかない。
この部屋のふかふかの絨毯でも、夜明け前はやはり寒い。
つま先が冷えて血の巡りが悪いので、バスタブに湯を張って湯浴みをした。
乳白色のお湯が心の中まで暖めて、寒さで緊張した躰がほぐれていく感覚が好きだ。
朝、肌寒さに目が覚めると、窓の外は初めて見る雪が降っていた。
ローブ一つしか身につけていない今、外に出て雪の中を駆け回ってみたいという願望は叶えられないが、窓をそっと開けて、空から舞い降りてくる雪の結晶を両手で迎えてみた。
白く儚い雪の結晶は、私の掌の上で、溶けて、消えていった。
今日は寒い。
おまけに、昨日からローブがなくなって、シーツにくるまっていなければならないので、身動きしにくいし、何も身につけないで部屋の中を歩くのもちょっと居心地が悪い。
機織りの音が聞こえるような気がするが、ローブの代わりに何か身につけるものがほしい。
今日は、どういう訳か、朝起きてみたらいつものローブがなかった。
仕方がないので、躰にシーツを巻き付けて過ごしたが、あのような薄いローブ一枚でも、無いととても心細い。
結局今日は誰も来なかったので事なきを得たが、あの妖精達がどこかに隠したのだろうか?
白くてふわふわした妖精のようなドレス、黒くてすべすべのゴシック調のドレス。
そして、華やかな模様が織り込まれた、東洋のドレス。
今、とてもシンプルなローブしか身につけていないからかもしれないが、色々な服を着飾ってみることを考えるのは、とても楽しい。
時々、私の心に、遠くにいる姉妹達の思念が、すべりこむように流れてくる。
暗い四囲から抜け出し、暖かい日差しの下で幸せそうに微笑む姉妹達の思念はその日差しのように暖かい。その一方で、いくら暖かい日差しを切望しても、いつまでも暗く湿った四囲の中から出してもらえず、寂しさと孤独の中で涙を流す姉妹達の思念は氷のように冷たく、私の心までかき乱す。
私たちは、感情を表に出すことは少ない。それゆえに、日の目を見ない境遇にある、姉妹達を憂う。
テーブルの上に置かれていた、銀のゴブレットに入っていた水。
起きたときに喉が渇いていたのでその水を一口飲んだ。
そのあとに私の中に生じた、言いようのないあの感情は一体何か。あの水は、一体。
別の世界から、ひどく透明な生き物が私の部屋に迷い込んだ。
その生物は、目も口も手足もないが、空中を漂い、私にじゃれてきた。
ふわふわとした不思議な肌触りがあたたかく、こすりつけてきた鼻先をなでてあげたら、満足そうに丸くなって、再び別の世界へ消えていった。
此処の寝室には、天蓋つきのベッドがある。 ふわふわのベッドにくるまって眠るのは、とても気持ち良い。
此処にいるのは、彼の人のおかげ。しかし、私は此処に来てから誰にも会っていない。
此処には一体誰がいるのだろう。
お土産が送られてきた。砂糖を固めた東洋の菓子で、落雁というらしい。
東洋のお茶と一緒に、午後の明るい時間に食した。
東洋のお茶は苦いが、同時に菓子の甘みが口の中に広がると同時に溶けていき、ちょっと幸せな気分になった。
私の知らない多くの姉妹達の中には、暗い四囲の中から出してもらえずに転々とすることも多いという。
その点、私は少なくとも暗い四囲の中から抜け出すことができただけでも幸せだ。
彼の人はどのような方なのだろう?